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アーティスト・イン・レジデンス


 
■2023年度招聘アーティスト
 菅 隆紀|Takanori Suga
 
■アーティストステートメント
中央と辺境、あるいは表と裏、といった両極に位置する概念は、菅作品を紐解くための重要なキーワードである。高級ブランドのマーク、ロゴやキャラクター、あるいは絵画におけるキャンバスというデザイン化された媒体を表側とするならば、ステッカーの剥がし跡や、ぶちまけられた液体といった路上で収集されるモティーフ、オーストラリア放浪時に道で見つけた牛骨、朽ちた空き家に至るまでの様々な形態を、菅は豊かな可能性を含む、裏側に位置する構造体として位置づける。それら裏側の構造体を規格外のキャンバスとして採用する一方で、路上で収集したモティーフを標準的なキャンバスに施すといった菅の実践には、表と裏という、相反する二つの概念を攪拌するような目論みが見られる。
グラフィティを思わせる壁画や、「ドリッピング」や「スクラッチング」など、ストリートアートの技法が喚起される画面からは容易に想像しがたいが、菅の絵画はむしろ周到に用意された複数の段階を踏むことで構成されている。作家によって収集され抽象化されたモティーフを、彼が選ぶ「キャンバス」にプロジェクターを用いて投影し、その輪郭を丁寧にトレースしたうえで描き写す。緻密な計算と手の込んだ描写によって成り立つ作品は、瞬間的な行為の蓄積に表面上似てはいるものの、その制作過程において、ストリートアート的なアプローチとはむしろ正反対の性質を帯びた、独自の表現言語を展開している。
自分はむしろ絵画の系譜にいる、と菅自身が主張するように、地と図の絶え間なる交差を喚起する中西夏之の絵画、「紙破り」の村上三郎の瞬間的な行為、あるいはキャンバスを切り裂いたルチオ・フォンタナなど、視覚的および思想 的領域において、彼に影響を与えた美術家達の存在は計り知れない。ただし、菅が制作において重視しているのは、正統な美術史的アプローチの外にある、より周縁的な取り組みであり、民俗学はその着想源のひとつである。
アイヌ民族の熊送りの習慣、あるいはアボリジニの伝承など、死と生の循環を説く神話に魅了されて来た菅は、自身の絵画の目的を「表と裏がつながったクラインの壺を描くこと」という言葉で簡潔に言い表す。彼にとって「キャンバス」に絵具を施すことは、生と死、表と裏を結び付け、その狭間に永遠の循環の道筋を作る、アボリジニやアイヌ民族にとっての儀式と似た意味を持つ。彼はこれまで、旧京都府庁や千葉県銚子市の風景に液体の垂れた余白を取 り込み、さらには亡くなった祖母が愛用していた着物に、ラッカースプレーと油彩でミュウミュウの壁紙のパターンを 施すなど、様々な形式でその意図を実現してきた。
表側からは見えにくいもの、疎外されたもの―― すなわち裏側に属するモティーフを抽象化し、液体がしたる「垂らし」や、画面を引っ掻いたような「傷跡」で表現する一方で、牛骨など辺境で収集したキャンバスには、ブランドロゴや有名キャラクターの図像を用いて、表と裏を反転し、繋げてみせる。菅の絵画は、アボリジニの神話に代わる、この世界に均衡をもたらすための、いわば装置のような役割を帯びて、これら両極的概念の絶え間なる交換と循環を示唆しつつ、見る者をそのあわいへと導く。
 
■略歴
1985 長崎生まれ
2009 愛知県立芸術大学 美術科 油画 卒業
2014-15 プロジェクトの為、渡豪
個展
2021 RITUAL SPIRIT、六本木蔦屋内BookGallery / 東京
2020 KAMADO EXHIBTION the norm TAKANORI SUGA & TOMOKO HASUWA、Shibuya Hikarie 8/CUBE123 / 東京
2011 Composite、CCAA アートプラザ / 東京
2008 Never Ending Story、Cafe Paul / 愛知
グループ展
2020 JR EAST meet ART @ Takanawa Gateway Fest 壁画制作 / 東京
2018 Kyojitsu-Hiniku:Between the Skin And The Flesh of Japan
ブラジル日本移民110周年記念現代美術展、イブラプエラ公園内日本移民館 / ブラジル
2017 TAKEO MABOROSHI TARMINAL#2(レジデンスプログラム)にて旧スナック丸ごと壁画 / 佐賀
2017 TAKEO MABOROSHI TARMINAL#1(レジデンスプログラム)にてDripping Project (武雄楼門前)/ 佐賀
2012 KOSHIKI ART EXHIBITON 2012、上甑島・中甑島 / 鹿児島
2010 菅隆紀 × 古畑智気、CAFE 木曜日 / 愛知
2009 R2 UERBAN LABORATORY / 千葉
2008 index#4 yes we can destroy、トーキョーワンダーサイト本郷 / 東京
屋外活動・プロジェクト
2021 丸の内Streetpark 冬 にて仮設デッキにアートワーク/東京
2021 丸の内Streetpark 夏 にて仮設デッキ床面アートワーク/東京
2020 #東横デパート壁ドーン 東急東横店クロージングプロジェクト企画、壁画 / 東京
2019 CASAWABI(レジデンスプログラム)に参加、コミュニティプロジェクトにて壁画を作成 /メキシコ
2017 ISAHAYA House Painting Project 屋外壁画 / 長崎
2016 MINAMISHIMABARA House Painting Project(牛小屋壁画)/ 長崎
2015 駒込倉庫壁面ドロウイング / 駒込倉庫、東京
2014 Rob Jack Black House Painting Project/in The Channon NSW / オーストラリア
2014 国道6号線看板ジャック / 千葉
2013 SASAKUSASU GTS企画 Dripping Project in ASAKUSA(浅草駒形堂前)/ 東京
2013 京都府庁旧公舎Dripping Project / 京都
2011 千葉県外房海岸沿いDripping Project / 千葉
受賞
2016 ART IN THE OFFECE 2016 / 糀町 / 東京
2012 トーキョーワンダーウォール公募2012入選作品展、東京都現代美術館 / 東京
2012 ワンダーシード2012、トーキョーワンダーサイト渋谷 / 東京
 
■2024年度招聘アーティスト
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